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金魚カクテル
昨日午後7時過ぎに京都高島屋地下で買った ご馳走が、今日の昼我が家の食卓に並んだ。
ローストビーフを半額で買ったもの、
甘エビを半額で買ったもの、
半額で買った五島産のいさきを塩焼きしたもの。
昨日はその後、藤井大丸地下でもたんまりお肉半額シリーズを買ったので、今日の夜、いや明日の昼までの食糧確保。
高島屋地下の中島水産が、午後7時からほぼ全品半額セールに突入するのを教えてくれたのはUさんだ。
50歳前後のおじさんなのだが、元気元気で髪もふさふさ、ふさふさどころかドレッドである。
映画などのキャメラマンをやっていて、小汚いなりをしているけれど強烈な個性のUさんは、夜の木屋町に出没する若者にあこがれる人が多い。
なんでそういう話になったか忘れてしまったのだが、Uさんちに遊びにいくことになった。
携帯メールで道案内してもらいながらUさんちに行くと、祇園・南座の裏の、アヤシイビルである。
京都というのは面白い街で、ピカピカした超現代風な味気のないビルも立ち並んでいるが、ちょっと路地(ろーじ)に入ると昔ながら平屋の町家が立ち並んでい たり、街の中心地でも、ちょっと裏にはいるとこんな昔なつかしいビルが平気で残っていたりする。
勝手なもので、自分は近代的な住まいに住んでいたいのだが、見るぶん、たまにお邪魔する分にはこういう昔ながらの、小汚い、冬にはすきま風がたっぷり吹き 込んでくるに違いない、ところによってはトイレが外にあったり風呂がなかったりする家が好きである。
映画でみるスラム街のビルの谷間のような壁際に自転車をとめて、えっちらおっちら4階まで外付け階段を昇っていくと、1フロアー2部屋ずつのそのビルの4 階がUさんち。むかいはあやしげな金融屋。
あけたままになっている部屋に「おっじゃましま~す」とはいったUさんの部屋は、予想通りの狭い玄関に昔のタイル張りのだいどこがすぐ左手にあり、右手に ある部屋は大きめの部屋、それから4畳半が続く。
部屋の調度品は全部木で、しかもいいものを「拾ってきた」。
この古い、昭和な雰囲気の部屋にそれら古きよき調度品はぴったりで、木の椅子に腰掛けるとこれも拾ってきたという業務用の小さな透明の冷蔵庫から、Uさん がビールを出してきてくれた。
それから手早く、魚のおつくり、酢味噌和え、山菜をたいたんだとか、あさりの酒蒸し(正確には焼酎蒸し)だとかを並べてくれた。
それで、高島屋の中島水産は7時すぎるとお得ですよ、という情報を教えてくれたのだ。
しかし、Uさんは独特でおもろいうえに、料理がうまい。
さいきん、やたら料理のうまい男性に出会うなー。
映画「スモーク」を観ながらビールを飲み、料理をいただく。
煙草のごときものも吸いながら。
和歌山出身のUさんは南方熊楠に熱く、いろんな文献を見せてくれた。
そいから、Uさん自作の真空管アンプで所蔵レコードを聴く。
で、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」聴きながら、持ってきたベリーダンス用のヒップスカーフ(たくさんコインがついていて、揺らすとシャラシャラい うやつね)をつけて踊ってあげたらUさん大喜び。
「すべての女がフラダンスやベリーダンス習ったらいいのに」
自分は、楽しく踊っているのであまり意識しないのだが、男性にとってベリーダンスはかなり性的に訴えるものであるらしく、よく踊ったあとで男性から「旦那 の前でも踊ってみせるの?」と訊かれ、「はい」と答えると「いいなあ」といわれる。
さて、そのあとこうなると思ってました、Uさんがマッサージしてくれるという。
で、マッサージしてもらってたら(口実だけでなく、ほんとうにうまかった)やはりだんだんそちらの方にいくので牽制。
「だめだよ~。しないって約束じゃん。それ以上したら、もう来ないよ」
Uさん慌ててやめる。
で、翌日用事があって早く起きなければならないので、早めにUさん宅を辞する。
それから、数週間後の夏になりかけの暑い日。
Uさんちは、その祇園の裏ともうひとつ、鞍馬方面の山奥の山小屋。
という話はきいていたのだが、山小屋のほうに前から招待されていて、都合が合う日ができたので、わたしの仕事場の近くで待ち合わせ、Uさんのバイクの後ろ にのっけてもらってたぱたぱたぱ、と山奥にむかった。
京都の北から10分くらいで、こんな人里はなれたところに到達できようとは。
あたりは山で、ちょっと人里はなれた道路から細い道にはいって登ったところでもう別世界である。
小屋が3軒、並んでいて、その真ん中がUさんの。
外に共同トイレ。
8畳一間くらいの板張りの部屋に台所がついていて、屋根裏部屋のような二階がある。
壁のそこここには、Uさん自作の飾りがぶらさがっている。
子どもでなくとも、わくわくする。
蚊取り線香に火をつけて庭に面するドアを開けてぼうっと外を眺める。よくしゃべるUさんが若者に人気の大編成バンドのメンバーがすし詰めでここに泊まった だの、ああだのこうだの言うのを適当に聞き流しながら庭に続く山の緑を眺め、木々のさわさわいう音、カナカナという鳥の声に聞き入った。
「焼酎、飲む?金魚カクテル」。
焼酎の水割りに氷と、ぷちっとちぎった赤唐辛子を放り込むとあら不思議、赤がとても鮮やかでかわいい金魚にみえてくる。
それから、ハイジな2階に案内してもらい、ベッドで優雅にくつろぎながら、また煙草もどきと金魚カクテル。
そこでまた、Uさんが頑張りだしたのだが頭ふわふわなってるし、もう別にいいやー、って感じで好きにさせといた。
貞操観念がしっかりしている人には怒られてしまいそうだが、「こんだけしてもらったんだし、これぐらいいいかな」と思ってしまう。
それを、フェミニストなどは「女が自分で価値を下げている」とか、「自分を大事にしない」とかいいそうだけど、いかんせん私は原始的な人間なもので。
こんなに貞操観念をとやかくいわれるのはごくごく最近のことで、実際は性はもっとゆるやかだったはずだし、物々交換のように何かの対価であったはずであ る。
公にしてしまうと、あちこちからたたかれるだろうので自分ひとりのなかで、自分は大昔の価値観でいこうと決めている。それが自分にとって正直な生き方だか ら。
Uさんは、酔っ払ってしか、セックスしたことないという。びっくり。「だって、恥ずかしいやん」。
わたしは、酔っ払ってないほうが気持ちよくできるから、気合いれたセックスはあまり酔っ払わないでしたい。
実は恥ずかしがりなんだな。Uさん。
で、またバイクで出発地点まで送ってもらう。
頭ほわほわで、バイクに乗ってるとあたる風が波になって体のなかに押し寄せてきて気持ちいい。
「このまま、Uさんにまわしてる手をはなしたらバイクから落っこって、後続の車にはねられて死ぬんだろうな。それも気持ちよさそう」
と思いながら、かろうじて停車までUさんにつかまりつづけ、無事出発地点へ。
その後の自転車での帰宅も、風がざわざわと体のなかに押し込んできて気持ちよかった。
また、あの時のように暑い季節がやってきた。
金魚カクテル。
今度は自分で作ってみようかな。
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